名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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デアリングハートのイメージビジュアル
デアリングハートDaring Heart
Daring Heart

デアリングハート

通算成績26戦4勝

獲得賞金27,486万円

生年月日 2002.03.09(平成14年)毛色 栃栗毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
デアリングハートの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
7 GIフェブラリーS 東京 ダ1600 10人気 藤田伸二 1:36.5 上り37.3映像
2 TCK女王盃 大井 ダ1800 1人気 藤田伸二 1:54.3 上り37.0
3 クイーン賞 船橋 ダ1800 4人気 藤田伸二 1:52.5 上り39.2
12 GIエリザベス女王杯 京都 芝2200 8人気 藤田伸二 2:13.0 上り34.9映像
1 GIII府中牝馬S 東京 芝1800 4人気 藤田伸二 1:45.4 上り33.9
7 GIIIクイーンS 札幌 芝1800 4人気 藤田伸二 1:47.2 上り34.9
9 GIIIエプソムカップ 東京 芝1800 3人気 藤田伸二 1:49.2 上り36.4
3 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 8人気 藤田伸二 1:32.6 上り33.4映像
6 GIIIダービー卿チャレンジ 中山 芝1600 6人気 藤田伸二 1:33.7 上り35.8
13 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 7人気 藤田伸二 1:33.9 上り35.7映像
1 GIII府中牝馬S 東京 芝1800 2人気 後藤浩輝 1:47.5 上り33.9
1 GIIIクイーンS 札幌 芝1800 3人気 藤田伸二 1:46.7 上り35.9
4 GIIIエプソムカップ 東京 芝1800 10人気 藤田伸二 1:49.5 上り36.9
6 GIヴィクトリアマイル 東京 芝1600 11人気 藤田伸二 1:34.6 上り34.5映像
12 GIIサンスポ杯阪神牝馬S 阪神 芝1400 7人気 M.デムーロ 1:23.3 上り38.3
15 GII毎日放送賞スワンS 京都 芝1400 3人気 松永幹夫 1:22.8 上り36.8
12 GI秋華賞 京都 芝2000 3人気 後藤浩輝 2:01.1 上り36.4映像
4 GIIIクイーンS 札幌 芝1800 1人気 後藤浩輝 1:47.2 上り35.6
2 GINHKマイルカップ 東京 芝1600 10人気 後藤浩輝 1:33.9 上り33.8映像
3 GI桜花賞 阪神 芝1600 10人気 M.デムーロ 1:33.6 上り35.0映像
2 GIIフィリーズレビュー 阪神 芝1400 7人気 武幸四郎 1:21.2 上り34.9
6 OPエルフィンS 京都 芝1600 3人気 武幸四郎 1:36.5 上り34.6
3 OP紅梅S 京都 芝1400 2人気 武幸四郎 1:24.4 上り34.6
5 GI阪神ジュベナイルF 阪神 芝1600 11人気 武幸四郎 1:35.5 上り35.2映像
1 2歳未勝利 京都 芝1600 1人気 武幸四郎 1:35.3 上り35.7
2 2歳新馬 京都 芝1400 2人気 武幸四郎 1:24.8 上り35.7

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
デアリングハートの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
サンデーサイレンスSunday SilenceHaloHail to Reason
Cosmah
Wishing WellUnderstanding
Mountain Flower
デアリングダンジグDaring DanzigDanzigNorthern Dancer
Pas de Nom
Impetuous GalBriartic
Impetuous Lady
STORY

旅程 — この馬の物語

2002年生まれの栗毛の牝馬。父サンデーサイレンス、母デアリングダンジグ。主な勝ち鞍はクイーンS・府中牝馬S。

「勇敢な心」という名

2002年3月9日、北海道千歳市の社台ファームで栃栗毛の牝馬が生まれた。父はサンデーサイレンス。母はアメリカから輸入されたデアリングダンジグで、その父はダンジグである。名は母の一語をそのまま受け継いだ。デアリングハート——意味は「勇敢な心」。 母がアメリカで産んだ仔に、Ecton Parkがいる。1999年のスーパーダービーを勝ち、翌年のパシフィッククラシックで3着に入ったダート馬だ。日本へ渡ってからの産駒には、武蔵野ステークスなど重賞を三つ勝ったピットファイターがいた。名を挙げた半兄は、いずれも砂の上を走っている。 預かったのは栗東の藤原英昭だった。2001年に星川薫厩舎を引き継いで開業したばかりで、重賞は勝っていたが、GIはまだ一つも手にしていない。 2004年10月9日、京都の芝1400メートルでデビューする。鞍上は武幸四郎。2番人気で2着に敗れ、三週間後の未勝利戦を、今度は1番人気で勝ち上がった。年末の阪神ジュベナイルフィリーズは11番人気の5着。このときの馬体重は418キロで、以後、この馬の馬体重が440キロに届いたことは一度もない。小柄な牝馬だった。 その阪神ジュベナイルフィリーズの3着に、1番人気のラインクラフトがいた。ここから一年半、デアリングハートはこの馬の背中を見続けることになる。

ラインクラフトの背中

三歳の年明け、紅梅ステークスは3着、エルフィンステークスは6着。エルフィンを勝ったエアメサイアも、同じ社台ファームの生まれである。 3月のフィリーズレビューで、暮れの阪神で先着を許した相手と、三か月ぶりに同じゲートに入った。7番人気のデアリングハートは直線で伸び、ゴール前で勝ち馬に並びかける。差はアタマ。時計は一分二十一秒二で同じだった。前にいたのは、やはりラインクラフトである。生まれは4月4日。デアリングハートより、ひと月足らずあとにあたる。 この2着で桜花賞への出走権を得る。4月10日の阪神は、二ハロン目に10秒4が刻まれる激しい流れになった。10番人気のデアリングハートは、その流れの先行集団にいる。三コーナーを回ると先頭に次ぐ位置まで上がり、四コーナーを過ぎても位置は変わらない。勝ちにいける場所だった。 交わされたのは直線である。後ろにいた二頭が、相次いで前に出た。一頭はラインクラフト、もう一頭は1番人気のシーザリオ。着差はアタマとクビ。三頭は十分の一秒の中に収まって、ゴール板を過ぎた。 五月のNHKマイルカップは後藤浩輝に乗り替わり、また10番人気だった。今度は流れが緩み、六番手から差して2着。1馬身3/4前を走っていたのは、やはりラインクラフトである。暮れの阪神から数えて四度、彼女はまだ一度も、この馬の前でゴール板を過ぎていない。

四百八キロの秋

夏の札幌、クイーンステークスで、重賞では初めて1番人気に推された。結果は4着。秋華賞は3番人気で12着、1秒9も離された。勝ったのはエアメサイア、2着はラインクラフトである。二週間後のスワンステークスは重馬場で15着に沈んだ。このときの馬体重は408キロ。デビューからの最軽量だった。 そこから五か月半、彼女は競馬場に姿を見せない。 明けて2006年の春、復帰した阪神牝馬ステークスは12着。勝ったのは、またしてもラインクラフトだった。次のヴィクトリアマイルは11番人気の6着に終わったが、この日、ラインクラフトは9着だった。七度目の対戦にして、初めて前でゴールしたことになる。もっとも、どちらも上位には遠い。そして二頭が同じレースを走ったのは、これが最後になった。 続くエプソムカップは重馬場の4着。四歳の春は、それで終わりである。勝ち鞍のないまま、陣営は前年に1番人気で敗れた札幌へ、もう一度向かった。

札幌、四つ目の角

2006年8月13日、札幌。芝千八百メートル。この馬が最後に一着でゴール板を過ぎたのは、二歳の秋の未勝利戦だった。あいだに一年九か月あまりが横たわっている。 ゲートが開くと、前が速かった。二ハロン目に十秒台が刻まれ、隊列は縦に伸びる。藤田伸二を背にしたデアリングハートは六番手あたり。その速さを、追いかけずにやり過ごした。 向正面でも位置は変わらなかった。前で作られている速さは、いずれ誰かの脚を止める種類の速さである。三コーナーを回るころ、彼女はようやく差を詰めはじめた。四つ目の角に入ると、先頭を行くマイネサマンサの脇に、栃栗毛の頭が並ぶ。この日いちばん人気を集めていた馬だ。すぐ後ろには、ヤマニンシュクルとレクレドールが二頭で続いている。 直線を向く。札幌の直線は短い。そして残る三ハロンのラップは、十二秒台、十一秒台、また十二秒台。加速する余地は、もうどこにも残っていない。速さを追いかけた馬から順に脚が上がり、マイネサマンサが止まった。三年前の阪神ジュベナイルフィリーズを勝ったヤマニンシュクルも、差を詰めきれない。 四百二十四キロの馬体が、最後の一ハロンを持ちこたえた。一馬身四分の三。デアリングハートの、初めての重賞である。

六日後

八月十九日の早朝、ラインクラフトが放牧先のノーザンファーム空港牧場で倒れた。調教中の急性心不全だった。四歳。秋のスプリンターズステークスに備え、月末には栗東へ帰る予定になっていた。デアリングハートが札幌で最初の重賞を勝ってから、六日後のことである。 十月十五日、東京。府中牝馬ステークスの鞍上は後藤浩輝に戻っていた。彼がこの馬に乗ったのは前年の秋華賞が最後で、それまで三度手綱を取り、一度も勝てていない。 レースは中盤が緩み、上がり三ハロン——最後の六百メートル——が34秒2という瞬発戦になった。デアリングハートは三番手から二番手へ上がり、直線で先頭に立つ。後ろから二頭が伸びてきた。サンレイジャスパーとディアデラノビアである。三頭とも時計は一分四十七秒五。着差はクビとハナで、いちばん前にいたのはデアリングハートだった。重賞は、これで二つ。 一か月後のマイルチャンピオンシップは13着。牡馬も走るGIの壁は、まだ厚かった。

五歳、二度目の府中

2007年の始動は、ダービー卿チャレンジトロフィーの6着だった。五月のヴィクトリアマイルでは8番人気ながら、六番手から上がり三ハロン33秒4の脚を使って3着に飛び込む。勝ったコイウタとの差は0秒1しかない。 夏の札幌、クイーンステークスは7着。勝ったのはアサヒライジングだった。 十月十四日、東京。1番人気は、その夏に先着を許したアサヒライジング。デアリングハートは4番人気にすぎない。この日の彼女は、とにかく動かなかった。二、三、四コーナーの通過順位はいずれも四番手。前を行く三頭の背中を見ながら、最後の直線に入る。そこから33秒9でまとめ、1番人気を1馬身3/4突き放した。府中牝馬ステークス連覇。二年続けて、東京の千八百メートルが彼女の庭になった。 十一月のエリザベス女王杯は12着。勝ったのは三歳のダイワスカーレットだった。

冬のダート、そして三か月後

十二月、船橋のクイーン賞。半兄たちが名を挙げた砂の上に、彼女が初めて立った。結果は3着。年明けの大井、TCK女王盃では1番人気に支持され、0秒2差の2着に敗れる。 そして2008年2月24日、東京のフェブラリーステークス。ヴァーミリアンが勝ったこのダートGIで7着に入り、これが最後の一戦になった。競走馬登録は2月28日付で抹消され、彼女は生まれた千歳へ帰っていく。 その三か月後、五月十八日。同じ東京競馬場のヴィクトリアマイルを、藤原英昭はエイジアンウインズで勝った。開業八年目にして、初めてのGIタイトルである。鞍上は藤田伸二だった。デアリングハートが二度走り、三着が最高だったレースを、彼女を預かった調教師と、彼女に十三回跨った騎手が獲ったことになる。

九番

2011年、キングカメハメハとのあいだに黒鹿毛の牝馬が生まれた。デアリングバードという。母と同じ藤原英昭厩舎に入ったが体質が弱く、入厩は三歳の春までかかり、脚元の腫れでデビューはさらに遅れた。ようやく走ったのは三歳七月の中京、ダート千四百メートルの未勝利戦で9着。それが最初で最後の一戦になる。引退した年の繁殖馬セールに上場され、日高町で夫婦二人が営む長谷川牧場が三百六十万円で連れて帰った。 その二番仔が2017年4月15日に生まれる。当歳のセレクトセールでは買い手がつかず、翌年ようやく一千二百万円で売れた。名はデアリングタクト。2020年4月12日、雨の阪神競馬場——感染症の流行で観客はいない——彼女は桜花賞を勝った。父エピファネイアの母はシーザリオ。母デアリングバードの母はデアリングハート。十五年前の同じレースで二着と三着に敗れた二頭の血が、一頭になって同じ直線へ帰ってきたのである。あの日先頭でゴールしたラインクラフトは、現役のまま四歳の夏に世を去り、仔を残していない。 デアリングタクトを管理したのは栗東の杉山晴紀で、母と娘の二代を預かった藤原英昭の名は、三冠の記録には出てこない。彼が二代にわたって触れた血だけが、日高の小さな牧場を経由し、別の厩舎から歴史へ届いた。そしてデアリングタクトが背負っていたゼッケンは、九番だった。十五年前、阪神の直線でアタマとクビに泣いた栃栗毛が着けていた番号と、同じである。あの日の彼女の前には、二頭がいた。十五年後、同じ番号が同じ直線を抜け出したとき、その行く手を塞ぐ影は、もうどこにもなかった。

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