名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
HORSES

名馬録

この世代(生まれ年) —

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ジオグリフGeoglyph
Geoglyph

ジオグリフ

通算成績21戦3勝

獲得賞金(海外含む・概算)約4億2,724万円

生年月日 2019.02.25(令和元年)毛色 栗毛性 牡

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
ジオグリフの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
13 GIクイーンエリザベスS ランドウィック 芝2000 5人気 D.レーン —
18 GIドンカスターマイル ランドウィック 芝1600 10人気 D.レーン —
11 GIII東京新聞杯 東京 芝1600 7人気 横山武史 1:33.4 上り33.7
5 GIBCマイル デルマー 芝1600 5人気 横山武史 —
2 GII札幌記念 札幌 芝2000 3人気 横山武史 1:59.9 上り35.0
6 GI安田記念 東京 芝1600 12人気 北村宏司 1:32.8 上り34.0
5 GI大阪杯 阪神 芝2000 8人気 北村宏司 1:58.5 上り34.9
3 GII中山記念 中山 芝1800 4人気 戸崎圭太 1:48.5 上り37.3
15 GIチャンピオンズカップ 中京 ダ1800 10人気 W.ビュイック 1:55.0 上り41.4
9 JpnⅠマイルチャンピオンシップ 盛岡 ダ1600 3人気 岩田望来 1:37.0 上り37.5
9 GI宝塚記念 阪神 芝2200 11人気 岩田望来 2:11.9 上り35.8
11 GIドバイワールドカップ メイダン ダ2000 5人気 C.ルメール —
4 GIサウジカップ キングアブドゥル ダ1800 9人気 C.ルメール 1:51.0 —
6 GI香港カップ シャティン 芝2000 4人気 W.ビュイック —
9 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 5人気 福永祐一 1:58.3 上り33.6
7 GI東京優駿 東京 芝2400 4人気 福永祐一 2:22.9 上り34.9
1 GI皐月賞 中山 芝2000 5人気 福永祐一 1:59.7 上り34.3
2 GIII共同通信杯 東京 芝1800 1人気 C.ルメール 1:48.1 上り34.0
5 GI朝日杯フューチュリティステークス 阪神 芝1600 2人気 C.ルメール 1:34.0 上り34.5
1 GIII札幌2歳S 札幌 芝1800 1人気 C.ルメール 1:49.1 上り36.1
1 2歳新馬 東京 芝1800 3人気 C.ルメール 1:48.2 上り33.3

血統

金色の名は掲載馬 — その馬のページへ/点線の名は押すと一言解説
ジオグリフの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
キングカメハメハKing Kamehameha
ナスカ
アンデスレディー
◎

引退後・牧場での映像

ゴール板の先の時間
STORY

旅程 — この馬の物語

2019年生まれの栗毛の牡馬。父ドレフォン、母アロマティコ。主な勝ち鞍は皐月賞・札幌2歳S。

地上絵の名 ― アンデスの牝系から

2019年2月25日、ノーザンファームに生まれた栗毛。父はアメリカでブリーダーズカップ・スプリントを制した快速馬ドレフォン、母は中央6勝を挙げ秋華賞・エリザベス女王杯で3着に食い込んだアロマティコ。その母、つまりジオグリフの祖母の名はナスカ――ペルーの乾いた大地に、いまも誰が何のために描いたのか分からない巨大な絵が眠る、あの土地の名である。母系にはインティライミ(京都大賞典・ダービー2着)、ステイヤーズステークスを三度制したアルバート、地方の女王アンデスクイーンが連なり、きょうだいや近親には南米の地名や遺跡をまとった馬が並ぶ。祖母ナスカの土地に描かれた線に呼応するように、この牡馬にはジオグリフ=地上絵の名が与えられた。持ち主はサンデーレーシング、預けられたのは美浦の木村哲也。2021年6月、東京の芝1800mの新馬戦を、クリストフ・ルメールの手綱で好位から抜け出し、後続に1馬身半差をつけて勝ち上がる。乾いた大地の名を負った馬の旅は、名手が引いた一本の線から始まった。

ルメールが描いた線 ― 二歳の器

秋、札幌2歳ステークス。ルメールはこの馬をあえて最後方に置き、直線で外へ持ち出すと、上がり最速の脚で4馬身をぶち抜いた。父ドレフォンにとって産駒初の重賞制覇。年末の朝日杯フューチュリティステークスは2番人気に推され、後方から大外を上がり最速タイの脚で追い込んだが、前をとらえきれず5着。明けて共同通信杯、メンバー唯一の57kgを背負って1番人気に応えられず、ダノンベルーガの2着に敗れる。それでも新馬から4戦、手綱はずっとルメールにあった。クラシック戦線の一角として、皐月賞の府中に最も濃い期待を集めていたのは、ルメールが線を引き続けたこの器だった。

乗り替わりの皐月賞 ― 福永の一冠

2022年4月17日、中山の皐月賞。ルメールはジオグリフを降り、同じ木村哲也厩舎のイクイノックスを選んだ。空いた鞍上に迎えられたのが福永祐一である。ダービーを三度勝った名手でありながら、皐月賞のタイトルだけは、長く手のなかをすり抜けていた。5番人気、伏兵。福永は好スタートから中団の外につけ、直線で満を持して追い出す。坂を力強く駆け上がって先頭に立ったのは、内で粘るイクイノックス。ジオグリフはその外から容赦なく伸び、ゴール前できっちり差し切って1馬身。3着にドウデュースが続き、木村厩舎のワンツーで皐月賞は決した。「5番人気で、伏兵扱いでしたけど、自分がうまく誘導さえできれば勝てる馬だと思っていた」[^1]。福永にとって初めての皐月賞。翌2023年2月にターフを降り、調教師へ転じる名手が、騎手として掴んだ最後のクラシックだった。そして――このとき差し切った内の2着馬こそ、やがて世界の頂に立つイクイノックスだったことは、まだ誰も知らない。

出典:中日スポーツ・東京中日スポーツ「【皐月賞】ジオグリフで皐月Vの福永祐一「自分がうまく誘導できれば勝てる馬だと思っていた」」2022年4月17日配信、https://www.chunichi.co.jp/article/454775 、閲覧日:2026年7月19日。

一冠の代償 ― ダービーの陰

一冠の重みは、すぐに影を連れてきた。5月のダービー、4番人気。福永は中団から追い込みをかけたが、直線で伸びを欠いて7着に沈む。距離が課題になると、福永自身がレース前から口にしていた不安は、府中の2400mで現実になった。しかもレース後、右前脚の繋骨に骨折が判明。全治3か月。皐月賞馬が二冠、三冠へと駆け上がっていくはずの季節は、開いた矢先に閉じた。皮肉なことに、この年のダービーを制したのは福永自身――別の相棒ドウデュースだった。ジオグリフが福永に授けたのは皐月賞の一冠きり。そこから先の栄光は、別の馬の背にあった。ターフに戻ってきたとき、この馬に残されていたのは、二冠の夢ではなく、一つの冠を胸にどこまで走れるかという長い問いだった。

世界を巡る ― 二つの光のあわい

秋、天皇賞。福永を背に中団から前をうかがうも抜け出せず9着。この日、府中をレコードで蹂躙して世界へ羽ばたいたのは、皐月賞で差したはずのイクイノックスだった。かつての好敵手が頂へ駆け上がっていくのを尻目に、ジオグリフは旅に出る。香港カップ6着、サウジカップでは9番人気ながら初めてのダートで粘って4着に食い込み、ドバイワールドカップ、宝塚記念、盛岡の南部杯、チャンピオンズカップ――芝もダートも、国内も海外も試した。だが皐月賞以来、連対の二文字は一向に戻ってこない。岩田望来はダートを使ったあとに、やはり芝のほうが合うと振り返った。勝てない一年半、それでもこの馬は毎月のように違う国の、違う馬場の入場門をくぐり続けた。一冠を負った旅人は、光の当たる場所と当たらぬ場所の、そのあわいを黙々と歩いていた。

地上絵は北へ帰る ― 遠い連対、そして種牡馬へ

2024年、中山記念で外からジワジワと伸びて3着。長いトンネルの出口が、うっすら見えた。夏の札幌記念、横山武史はロスなく内を立ち回り、4コーナーを絶好の手応えで回る。捉えきれなかった相手はノースブリッジ、0.3秒差の2着。それでも皐月賞以来、実に2年4か月ぶりの連対だった。秋にはデルマーのブリーダーズカップ・マイルへ渡り、きついコースを好位から粘って5着。異国の芝でも、この馬はまだ見せ場を作れた。だが翌2025年、オーストラリア遠征のドンカスターマイルとクイーンエリザベスステークスで大きく崩れると、右前脚の球節と管骨に骨折が見つかる。8月、現役登録を抹消。通算21戦3勝、重賞は札幌2歳ステークスと皐月賞の二つ。地上絵の名を負った旅人は、北海道新冠の優駿スタリオンステーションで種牡馬となった。全弟ロスパレドネスはすでに新馬戦を勝ち、南米の地名をまとう一族の血は次の代へ流れ出している。世界じゅうの芝とダートを巡った皐月賞馬は、いまアンデスの牝系が根を張る北の大地に帰り、自らの線を継ぐ仔を待っている。

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