名馬の記憶を、
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年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

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イクノディクタスのイメージビジュアル
イクノディクタスIkuno Dictus
Ikuno Dictus

イクノディクタス

通算成績51戦9勝

獲得賞金52,660万円

生年月日 1987.04.16(昭和62年)毛色 栗毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
イクノディクタスの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
8 OP富士S 東京 芝1800 5人気 田島信行 1:48.7 上り36.2
10 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 16人気 村本善之 2:00.2 上り36.2映像
7 GII毎日王冠 東京 芝1800 6人気 村本善之 1:46.4 上り35.6
7 GIII産經賞オールカマー 中山 芝2200 4人気 村本善之 2:14.3 上り35.1
1 OPテレビ愛知OP 京都 芝2000 1人気 村本善之 2:00.2 上り35.1
2 GI宝塚記念 阪神 芝2200 8人気 村本善之 2:18.0 上り37.7映像
2 GI安田記念 東京 芝1600 14人気 村本善之 1:33.7 上り34.9映像
9 GI天皇賞(春) 京都 芝3200 14人気 村本善之 3:19.8 上り38.3映像
6 GII産經大阪杯 阪神 芝2000 6人気 村本善之 2:04.7 上り50.1
6 GII日経賞 中山 芝2500 5人気 村本善之 2:36.5 上り35.1
7 GI有馬記念 中山 芝2500 16人気 村本善之 2:34.1 上り35.0映像
9 GIジャパンカップ 東京 芝2400 14人気 村本善之 2:26.7 上り38.3映像
9 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 10人気 村本善之 1:34.3 上り47.6映像
9 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 4人気 村本善之 1:59.4 上り37.9映像
2 GII毎日王冠 東京 芝1800 3人気 村本善之 1:45.7 上り35.2
1 GIII産經賞オールカマー 中山 芝2200 4人気 村本善之 2:12.1 上り35.6
1 GIII小倉記念 小倉 芝2000 4人気 村本善之 2:01.0 上り37.8
12 GII高松宮杯 中京 芝2000 3人気 村本善之 2:02.3 上り38.8
1 GIII東海テレビ杯金鯱賞 中京 芝1800 1人気 村本善之 1:47.5 上り36.3
1 OPエメラルドS 阪神 芝2500 2人気 村本善之 2:39.4 上り49.7
4 GIII新潟大賞典 新潟 芝2200 5人気 内田国夫 2:14.9 上り49.3
2 OPメトロポリタンS 東京 芝2300 3人気 武豊 2:21.8 上り36.5
4 GII産經大阪杯 阪神 芝2000 7人気 村本善之 2:06.9 上り48.3
8 GIIIトヨタ賞中京記念 中京 芝2000 4人気 村本善之 2:01.5 上り37.4
10 GIII小倉大賞典 小倉 芝1800 2人気 安田隆行 1:50.6 上り37.5
2 OP関門橋S 小倉 芝2000 4人気 内田国夫 2:01.0 上り37.2
2 GIII朝日チャレンジカップ 中京 芝2000 6人気 村本善之 1:59.4 上り35.1
3 GIII小倉記念 小倉 芝2000 2人気 村本善之 2:03.1 上り35.2
2 GIIITV西日本北九州記念 小倉 芝1800 3人気 村本善之 1:47.2 上り35.8
3 OP小倉日経賞 小倉 芝1700 3人気 村本善之 1:40.7 上り34.5
7 GIII東海テレビ杯金鯱賞 中京 芝1800 5人気 村本善之 1:47.1 上り35.7
10 GIII阪急杯 京都 芝1400 2人気 村本善之 1:24.8 上り49.4
1 GIII京阪杯 京都 芝2000 7人気 村本善之 2:02.4 上り47.3
11 GII京王杯スプリングカップ 東京 芝1400 12人気 松永昌博 1:22.5 上り35.8
1 OPコーラルS 京都 芝1400 4人気 松永昌博 1:22.7 上り47.5
3 GII読売マイラーズカップ 中京 芝1700 7人気 松永昌博 1:42.1 上り37.0
4 OPすばるS 京都 芝2000 7人気 武豊 2:01.1 上り47.5
7 GIII京都牝馬特別 京都 芝1600 14人気 松永昌博 1:35.4 上り47.4
4 GIエリザベス女王杯 京都 芝2400 9人気 村本善之 2:26.2 上り48.4映像
2 GII関西TVローズS 京都 芝2000 10人気 村本善之 2:00.6 上り47.5
3 GIIIサファイヤS 中京 芝1700 8人気 村本善之 1:46.7 上り39.6
9 GI優駿牝馬 東京 芝2400 18人気 中舘英二 2:27.9 上り38.7映像
6 GIIサンスポ4歳牝馬特別 東京 芝2000 12人気 中舘英二 2:02.1 上り36.8
11 GI桜花賞 阪神 芝1600 18人気 西浦勝一 1:40.7 上り50.9映像
11 GII報知杯4歳牝馬特別 阪神 芝1400 8人気 西浦勝一 1:25.4 上り50.2
3 GIIIラジオたんぱ3歳牝S 阪神 芝1600 4人気 西浦勝一 1:36.0 上り48.3
5 GIIデイリー杯3歳S 京都 芝1400 7人気 西浦勝一 1:23.8 上り47.7
6 OP萩S 京都 芝1200 2人気 西浦勝一 1:11.5 上り47.5
9 GIII小倉3歳S 小倉 芝1200 1人気 西浦勝一 1:13.3 上り38.3
1 OPフェニックス賞 小倉 芝1200 2人気 西浦勝一 1:10.1 上り35.4
1 3歳新馬 小倉 芝1000 3人気 西浦勝一 0:58.6 上り35.0

血統

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イクノディクタスの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ディクタスDictusSanctusFine Top
Sanelta
DoronicWorden
Dulzetta
ダイナランディングノーザンテーストNorthern TasteNorthern Dancer
Lady Victoria
ナイスランディングNice LandingFirst Landing
Pashmina
STORY

旅程 — この馬の物語

1987年生まれの栗毛の牝馬。父ディクタス、母ダイナランディング。主な勝ち鞍は京阪杯・東海テレビ杯金鯱賞・小倉記念。

九三〇万円の栗毛 ― 小倉の夏に

1987年4月16日、北海道浦河町の高田栄治のもとに、栗毛の牝馬が生まれた。父はフランス産のディクタス、母は父にノーザンテーストを持つダイナランディング。翌1988年の夏、セリ市で930万円の値がついた。名は、馬主・勝野憲明の持ち馬に共通する「イクノ」に、父ディクタスの名を重ねたものである。 預かったのは栗東の福島信晴厩舎。この年に開業したばかりの、まだ重賞を勝ったことのない厩舎だった。 1989年7月23日、小倉の芝1000メートル。西浦勝一を背に、三番人気で新馬戦を勝ち上がる。続くフェニックス賞も勝って二連勝。このとき二着に退けたのがハギノハイタッチだった。単枠指定を受け、圧倒的な支持を集めて臨んだ小倉三歳ステークス(現在の小倉二歳ステークス)で、九着に沈む。勝ったのは、前走で自分が負かしたハギノハイタッチである。 ここから、長い坂が始まった。

十四連敗 ― 進路を押しのけない男

明けて1990年。桜花賞は十八頭立ての最低人気で十一着、優駿牝馬(オークス)も九着に終わった。クラシックはどれも遠かった。 秋、中京のサファイヤステークスから鞍上が替わる。村本善之。北海道出身、このとき三十五歳の中堅である。クリーンな騎乗で知られ、フェアプレー賞を通算十三度受けている。他人の進路を押しのけてまで勝ちにいくことをよしとしない――それが彼の流儀だった。 村本を背に、ローズステークスはわずかに及ばない二着、エリザベス女王杯は四着。惜しい競馬は続いたが、1990年は七戦して未勝利のまま暮れた。 勝てない時間は年を越えても終わらない。1991年初戦の京都牝馬特別は七着。勝ったのは同い年のダイイチルビーだった。フェニックス賞から数えて、十四連敗。連敗がようやく止まったのは、その年の三月、京都のコーラルステークスである。

京阪杯 ― 雨の京都、開業三年目

1991年5月12日の京都は雨だった。稍重の芝2000メートルに十三頭。五十四キロを背負ったイクノディクタスは七番人気で、四コーナーを回った時点でも中団のうしろにいる。そこから伸びて、二着に一馬身。京阪杯、初めての重賞だった。 管理する福島信晴にとっても、開業三年目でつかんだ最初の重賞である。二着に敗れたセンターショウカツの鞍上は、この春まで彼女に乗っていた松永昌博だった。 夏は小倉と中京を回る。北九州記念二着、小倉記念三着――勝ったのはナイスネイチャ――、朝日チャレンジカップ二着。勝ち切れないまま秋に休養へ入った。この中十九週が、五十一戦を通じていちばん長い間隔になる。この馬に、休みらしい休みはこれきりだった。

夏女 ― 一九九二年

五歳の春は六戦して勝てなかった。五月末、阪神のエメラルドステークスでようやく勝ち、翌月の金鯱賞は一番人気に応えて重賞二勝目を挙げる。 夏の小倉記念では五十七キロを背負わされた。それでも直線で五十八・五キロのレッツゴーターキンと並び、ハナ差だけ先に決勝線を過ぎている。二か月後、レッツゴーターキンは天皇賞(秋)を勝つ馬になった。 九月、中山のオールカマー。十一のハロンがどれも十一秒台から十二秒台に収まる淀みない流れを、五十四キロで押し切って2分12秒1。1989年にオグリキャップが刻んだレースレコードを、0秒3縮めた。続く毎日王冠はダイタクヘリオスに0秒1差の二着。 秋のGI四戦は、天皇賞(秋)九着、マイルチャンピオンシップ九着、ジャパンカップ九着、有馬記念七着。ひとつも勝てていない。それでもこの年のJRA賞最優秀5歳以上牝馬(当時の部門名)に選ばれたのは、重賞を三つ勝ち、格上の相手に食い下がり続けた一年の中身が評価されたからだった。 通算九つの勝ち鞍のうち、八つが五月から九月までの間にある。夏女、と呼ばれた。

五月十六日、府中

六歳の春は、日経賞六着、産經大阪杯六着、天皇賞(春)は九着。距離も相手も噛み合わず、人気は落ちる一方だった。 1993年5月16日、東京競馬場。晴れ、芝は良。安田記念のゲートに十六頭が並び、イクノディクタスは十四番人気だった。 扉が開くと、マイネルヨースが前に出る。その直後にヤマニンゼファーがつけ、隊列はすぐに固まった。序盤の二ハロンは速い。流れは六ハロン目でいったん緩み、そこから直線に向けてもう一度締まっていく。 彼女はその列のうしろにいた。三コーナーで十二、三番手。四コーナーでもまだ十三番手で、目の前には十二頭の尻が並んでいる。直線で先に抜け出したのは、二番手からするりと出たヤマニンゼファーだった。 村本が追い出す。最後の六百メートル、レース全体が三十五秒八で上がったところを、この馬は三十四秒九で上がった。四コーナー十三番手だった馬が、府中の長い直線で十二頭を抜いていく。 届いたのは、勝ち馬から一馬身と少し。二着だった。

賞金の記録と、雨の阪神

この二着で、イクノディクタスは牝馬の獲得賞金の記録を塗り替えた。それまでその位置にいたのは、二年前に京都牝馬特別と京王杯スプリングカップで彼女の前を走ったダイイチルビーである。 四週後の阪神は雨だった。宝塚記念は十一頭立て。一コーナーを彼女は最後方で回り、中盤で十三秒台まで緩む消耗戦になっても、動かずにいる。四コーナーを回ってもまだ後ろから二、三頭目。そこから直線で、前にいた馬をひとつずつ捉えていった。最後まで捉えられなかったのは一頭、天皇賞を二度勝っているメジロマックイーンだけである。一馬身四分の三差の二着。前年このレースを勝ったメジロパーマーは、十着に沈んでいた。 一か月のうちに、GIの二着が二つ。六月末のテレビ愛知オープンを一番人気で勝ったのが、生涯最後の勝利になった。 秋は勝てなかった。オールカマー七着――勝ったのはツインターボ――、毎日王冠七着、天皇賞(秋)十着。そして11月14日、田島信行を背にした富士ステークスの八着が、五十一戦目だった。

五丸農場 ― 走るな、と言われて

引退後は新冠町の五丸農場で繁殖牝馬になった。初仔の父に選ばれたのは、宝塚記念で唯一先着を許したメジロマックイーン。夢の配合と呼ばれた牝馬キソジクイーンは、デビュー戦の鞍上に武豊を迎えながら、十一戦して勝てなかった。以後の産駒も中央では勝てず、2008年生まれを最後に繁殖からも退いている。競馬評論家の大川慶次郎は、歴史に残る名馬であることは間違いないとしたうえで、牝馬をここまで競走に使い込んだことに疑問を呈した。 放牧地には、年に百人ほどが訪ねてきた。ファンは彼女をイクノ姉さんと呼んだ。三十歳を過ぎても青草をよく食み、台風で厩舎が水に浸かった夜は、膝まで漬かったまま静かに耐えていたという。牧場スタッフの五丸久美は、それでも放牧地では走り出すことがあるといい、「こちらとしてはポキッと骨が折れるのが心配なので“走るな!”と言いたくなりますね」[^1]と笑った。 五十一回ゲートに入り、故障で戦線を離れることが一度もなかった馬に、人は最後、走るなと言う。 村本善之は2003年に騎手を降りた。通算九百七十二勝、千勝には二十八足りなかった。GI級競走は七つ勝っているが、その七つはいずれも別の馬で挙げたものだ。イクノディクタスとは重賞を四つ勝ち、二度の二着でGIのすぐ手前まで行って、そこで止まった。彼はそのまま栗東に残り、調教助手として朝の馬に跨る側へ回っている。 2019年2月7日の未明、イクノディクタスは五丸農場で息を引き取った。三十二歳だった。走るなと言われながら青草を食んだ日々のほうが、五十一回のゲートよりも、ずっと長い。

出典:スポーツニッポン「【純情牧場巡り】51戦“鉄の女”イクノディクタスの不屈魂は永遠に」2017年8月2日配信、https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2017/08/02/kiji/20170801s00004048336000c.html、閲覧日:2026年8月3日。

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