名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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名馬録

この世代(生まれ年)

スライダーを動かすと、その世代に生まれた馬を獲得賞金の多い順で表示します。

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マチカネタンホイザのイメージビジュアル
マチカネタンホイザMatikanetannhauser
Matikanetannhauser

マチカネタンホイザ

通算成績32戦8勝

獲得賞金5720万円

生年月日 1989.05.07(平成元年)毛色 栗毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
マチカネタンホイザの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
7 GIIIステイヤーズS 中山 芝3600 3人気 柴田善臣 3:49.9 上り39.0
12 GIジャパンカップ 東京 芝2400 11人気 柴田善臣 2:26.1 上り36.0映像
6 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 5人気 柴田善臣 1:59.3 上り35.3映像
8 GIII函館記念 函館 芝2000 1人気 柴田善臣 2:03.4 上り37.6
1 GII高松宮杯 中京 芝2000 3人気 柴田善臣 2:02.6 上り36.8
GI有馬記念 中山 芝2500 柴田善臣 映像
GIジャパンカップ 東京 芝2400 柴田善臣 映像
4 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 7人気 柴田善臣 1:59.0 上り34.5映像
5 GII毎日王冠 東京 芝1800 6人気 柴田善臣 1:45.0 上り34.6
9 GI宝塚記念 阪神 芝2200 9人気 柴田善臣 2:12.8 上り36.2映像
5 GIII京阪杯 阪神 芝2000 2人気 武豊 1:59.8 上り35.7
5 GI天皇賞(春) 阪神 芝3200 5人気 柴田善臣 3:23.3 上り36.8映像
3 GII日経賞 中山 芝2500 1人気 柴田善臣 2:32.9 上り36.5
1 GIIアメリカジョッキークラブカップ 中山 芝2200 4人気 柴田善臣 2:14.1 上り34.9
4 GI有馬記念 中山 芝2500 13人気 柴田善臣 2:31.6 上り34.9映像
15 GIジャパンカップ 東京 芝2400 13人気 岡部幸雄 2:26.1 上り37.6映像
1 OP富士S 東京 芝1800 1人気 田中勝春 1:48.2 上り35.0
4 GII高松宮杯 京都 芝2000 2人気 岡部幸雄 1:59.8 上り35.8
1 OPメイS 東京 芝2400 1人気 岡部幸雄 2:26.7 上り35.6
4 GI天皇賞(春) 京都 芝3200 3人気 岡部幸雄 3:18.6 上り37.4映像
1 GII目黒記念 東京 芝2500 1人気 岡部幸雄 2:32.4 上り36.2
1 GIIIダイヤモンドS 東京 芝3200 1人気 岡部幸雄 3:16.8 上り36.2
8 GIII日刊スポーツ賞金杯 中山 芝2000 1人気 柴田政人 2:01.3 上り37.6
3 GI菊花賞 京都 芝3000 3人気 岡部幸雄 3:05.2 上り46.9映像
2 OPカシオペアS 京都 芝1800 3人気 岡部幸雄 1:46.5 上り47.8
4 GI東京優駿 東京 芝2400 8人気 岡部幸雄 2:29.2 上り37.1映像
2 GIINHK杯 東京 芝2000 3人気 岡部幸雄 2:03.0 上り36.0
7 GI皐月賞 中山 芝2000 7人気 岡部幸雄 2:02.4 上り37.0映像
5 GIIフジTVスプリングS 中山 芝1800 4人気 岡部幸雄 1:51.8 上り38.5
4 GIII共同通信杯4歳S 東京 芝1800 2人気 岡部幸雄 1:49.3 上り36.3
4 GI朝日杯3歳S 中山 芝1600 3人気 岡部幸雄 1:35.0 上り35.6映像
1 OP府中3歳S 東京 芝1800 1人気 岡部幸雄 1:49.5 上り36.8
4 OPいちょうS 東京 芝1600 1人気 武豊 1:39.1 上り37.2
1 3歳新馬 中京 芝1700 2人気 武豊 1:43.1 上り35.0

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
マチカネタンホイザの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
ノーザンテーストNorthern TasteNorthern DancerNearctic
Natalma
Lady VictoriaVictoria Park
Lady Angela
クリプシーアローエクスプレススパニッシュイクスプレスSpanish Express
ソーダストリームSoda Stream
モンタロッチモンタヴァルMontaval
スターロツチ
STORY

旅程 — この馬の物語

1989年生まれの栗毛の牡馬。父ノーザンテースト、母クリプシー。主な勝ち鞍はダイヤモンドS・目黒記念・アメリカジョッキークラブカップ。

音楽の年 ― 名前と血

馬主の細川益男は、その年に名づける馬たちのテーマを毎年ひとつ決めていた。大阪弁の年があり、民謡の年があり、百人一首の年があった。1991年のテーマは音楽で、カルメン、アイーダ、トラビアタ、ハバネラといった名が並んでいる。その列に、ワーグナーの歌劇から名を借りた栗毛が一頭いた。 本来なら「マチカネタンホイザー」になるはずだった。だが日本の馬名登録は10字以上を受け付けない。最後の長音が落とされ、9文字に詰められた。冠名の「マチカネ」は、細川が学んだ旧制浪速高校のあった大阪府豊中市の待兼山から来ている。 生まれは1989年5月7日、北海道平取町の稲原牧場。父ノーザンテースト、母クリプシー、母の父アローエクスプレス。母系をさかのぼると、3代母にスターロッチが立っている。1960年のオークスと有馬記念を勝ち、静内の藤原牧場で一族を大きく広げた牝馬だ。皐月賞馬ハードバージも、天皇賞馬サクラユタカオーも、この牝系から出ている。半姉シバスキーの子孫にはワコーチカコやダンツジャッジがいる。 栗東・伊藤雄二厩舎に入った。デビューは1991年9月15日、中京の芝1700メートル。鞍上は武豊。1分43秒1はレコードだった。

8馬身、そしてアタマ

同じ年に走り出した馬に、ミホノブルボンがいた。 2戦目のいちょうステークスは1番人気で4着。立て直して府中3歳ステークスを勝ち、暮れの朝日杯3歳ステークスへ向かう。ここで初めてブルボンの背中を見た。4着。 年が明けても位置は変わらなかった。共同通信杯4着、スプリングステークス5着、皐月賞は7着。NHK杯ではナリタタイセイの2着まで詰め寄ったが、ダービーではまた離された。4着。先頭のミホノブルボンは8馬身前にいた。 秋はカシオペアステークスの2着で叩き、菊花賞へ。3000メートルの淀で三冠を止めたのはライスシャワーだった。ブルボンは2着に敗れ、マチカネタンホイザはその直後、アタマ差の3着でゴールする。春に8馬身あった距離は、秋にはアタマになっていた。 それでも足りなかった。ただ、朝日杯3歳ステークスから菊花賞まで、この世代の4つのGIをすべて走ったのは、ミホノブルボンとこの馬の2頭だけである。ブルボンが歴史をつくった4つの舞台に、最初から最後まで付き合った馬が一頭いた。

東京の冬

1993年の初戦、中山の金杯は1番人気で8着に終わった。鞍上は柴田政人。この年の5月に彼が何を手にするかは、このときまだ誰も知らない。 25日後、東京の芝3200メートル。ダイヤモンドステークスはハンデ戦で、この馬に課された57キロは出走馬中もっとも重かった。稍重の馬場を3番手で運び、直線で押し切る。3分16秒8はレコード、2着との差は3馬身半あった。重賞は、これが初めてだった。 中2週で目黒記念へ。58キロを背負い、2馬身半差で連勝する。負かした相手は、前年の菊花賞で先着を許したライスシャワーだった。 春の天皇賞は4着。ライスシャワーメジロマックイーンを突き放した日である。5月29日、東京のメイステークスは手綱を抑えたまま勝った。 その翌日、同じ東京競馬場でダービーが行われ、伊藤雄二厩舎のウイニングチケットが勝つ。鞍上は柴田政人。44歳にして、初めてのダービー制覇だった。ウイニングチケットもまた、スターロッチの牝系から出た馬である。同じ厩舎、同じ血の流れ。土曜と日曜で、2頭は同じ直線を走っていた。

13番人気の脚

夏の高松宮杯を4着で終えて休養に入り、秋は11月14日の富士ステークスから始動した。田中勝春に導かれて1着。 2週間後のジャパンカップは15着だった。1番人気のコタシャーンが、残り100メートルのハロン棒をゴール板と間違えて追うのをやめ、レガシーワールドに1馬身1/4差の2着に敗れた一戦である。その騒ぎの外側で、マチカネタンホイザも走っていた。岡部幸雄がこの馬に乗ったのは、これが最後になった。 暮れの有馬記念。岡部はビワハヤヒデの鞍上にいた。空いた手綱は柴田善臣に渡り、単勝は43倍、13番人気だった。 レースは後方から進めた。直線、1年ぶりに帰ってきたトウカイテイオーが、先に抜け出したビワハヤヒデを残り100メートルで捉える。ナイスネイチャが3着に入り、マチカネタンホイザはその後ろまで押し上げて4着で入線した。上がり3ハロン――最後の600メートルの時計は34秒9。勝ったトウカイテイオーの35秒0より、2着ビワハヤヒデの35秒3より速い。 勝った馬よりも、2着の馬よりも速い脚を使ったのは、13番人気の馬だった。

右回り

1994年1月23日、中山競馬場。芝2200メートルのアメリカジョッキークラブカップ。 この馬は、右回りで勝ったことがなかった。中京の新馬戦も、府中3歳ステークスも、ダイヤモンドステークスも、目黒記念も、メイステークスも、富士ステークスも、勝った舞台はすべて左回りだった。右回りの中山では、皐月賞で7着、正月の金杯で8着、暮れの有馬記念で4着。走れはする。届かない。それが2年あまりのあいだ、この馬にとっての右回りだった。 背中には58キロが載っていた。 柴田善臣は、抑える競馬に徹した。この馬の勝ち方は、本来なら先に動いて押し切るほうである。ダイヤモンドステークスは3番手から運んで押し切った。だがこの日は動かさない。ためる。ためたまま、直線を向いた。 前にはフジヤマケンザン。のちに海外の重賞を勝つことになる馬が、先に抜け出している。 マチカネタンホイザが追った。中山の直線は短い。坂がある。届く距離ではなかったはずだ。それでも、ゴール板の上では前に出ていた。 時計にすれば、わずか0秒1。最後の600メートルは34秒9で、1か月前の有馬記念とまったく同じ数字だった。同じ脚を、今度は勝つために使った。 右回りで、初めて勝った。

出られなかった2つのレース

重賞3勝目のあと、勝ち星は遠のいた。日経賞は1番人気で3着。春の天皇賞は5着で、勝ったのはビワハヤヒデ。京阪杯は5着、鞍上は久しぶりの武豊だった。デビュー戦でこの馬を勝たせた男である。宝塚記念は9着、前にいたのはまたビワハヤヒデだった。 秋、毎日王冠5着。天皇賞(秋)は4着で、最後の600メートルを34秒5でまとめている。勝ったのはネーハイシーザー。ビワハヤヒデはこのレースを最後に走らなくなった。 11月27日、ジャパンカップ。発走の直前に鼻出血が見つかり、競走から除外された。 1か月後、有馬記念。前日24日、入厩先の中山で蕁麻疹が出た。顔面に限局した発疹で、出走は取り消しになる。中山ではナリタブライアンが勝った。 厩舎の世界には「クモでも食べたときに出る」と言われる「クモ疹」という古い呼び名がある。伊藤雄二は事後に「クモでも食ったんちゃうか」と漏らしたと、当時の取材陣が口を揃えて証言している[^1]。「タンホイザ、クモ食べて取消」と打った新聞社も複数あった。 2度続けて、走らないまま厩舎へ帰った。出走表に名前を載せながらゲートに入れなかったのは、この2戦が初めてだった。

出典:中日スポーツ「「食ってないよ」…マチカネタンホイザ有馬記念取消事件の真相に迫る【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】」2022年1月14日配信、https://www.chunichi.co.jp/article/399912 、閲覧日:2026年8月3日。

6歳の夏

年が明けても、体は言うことを聞かなかった。フレグモーネ――蜂窩織炎を発症し、予定していたアメリカジョッキークラブカップを回避して放牧に出る。春のシーズンは、一度も出走しないまま過ぎていった。 戻ってきたのは7月9日、中京。高松宮杯。3番人気、58キロ。2着のダンシングサーパスを抑えて、重賞4勝目を挙げた。5着にはヒシアマゾンがいる。 これが、2000メートルで行われた最後の高松宮杯だった。翌年からこのレースはGIに格上げされ、距離は1200メートルへ変わる。2000メートルの高松宮杯は、この日で終わった。 夏の函館記念は1番人気で8着。秋の天皇賞はサクラチトセオーの追い込みを見る6着。ジャパンカップは12着で、勝ったランドに最後まで追いすがっていたのは、夏に5着へ退けたヒシアマゾンだった。半年のあいだに、相手は先へ行っていた。 12月9日、中山の芝3600メートル。ステイヤーズステークスをステージチャンプの7着で走り終えたのが、最後の一走になった。

手紙

引退後はブリーダーズ・スタリオン・ステーションで種牡馬になった。8シーズンで血統登録されたのは45頭。競馬場に出た41頭のうち、27頭が勝ち上がった。 2006年、待兼牧場へ移った。細川益男が1992年に門別の牧場を買い取って開いた自前の牧場で、その名は所有馬たちの冠と同じ「待兼」である。自分の名の頭にある二文字と同じ名の土地で、この馬は余生の入口を過ごした。 2010年3月31日、細川益男が亡くなる。同じ年、マチカネタンホイザは山梨県北杜市清里の小須田牧場へ移った。そこには、同じ勝負服で菊花賞を勝った5つ下のマチカネフクキタルがいた。フクキタルが悪戯を仕掛けてきても、食事のとき以外は相手にしなかったという。腸に不安を抱えていて、食べても肥えなかった。 2013年12月7日、疝痛で死んだ。 それから8年後、中日スポーツのレース部に一通の手紙が届く。ウマ娘の界隈で、あの有馬記念をめぐって「食ったよ」「食ってないよ」の議論が渦を巻いている、という知らせだった。獣医師の資格を持つ記者が、当時この厩舎で番頭格の調教助手を務めていた笹田和秀を訪ねる。ウイニングチケットの担当でもあった男である。笹田は破顔一笑して答えた。「そりゃ食べたところを誰かが見たわけではないよ」[^1] 問われていたのは、蜘蛛のことではない。死んで8年経ってなお、確かめずにいられない何かがこの馬には残っていた、ということだ。 12回走ったGIで、この馬は一度も2着以内に入れなかった。勝負服は赤に、青の二本輪。GIの勝ち馬としてその色が中央に立ったことは、ついに一度もない。 それでも、ミホノブルボンの三冠挑戦にも、ライスシャワーの淀にも、トウカイテイオーの復活にも、ビワハヤヒデの最後にも、この馬は同じ芝の上にいた。 代わりに残ったのは、話のほうだった。歌劇の名を借りた栗毛は、平成前半の名場面をどれか一つ思い出すたび、たいていその少し後ろのあたりに立っている。

出典:中日スポーツ「「食ってないよ」…マチカネタンホイザ有馬記念取消事件の真相に迫る【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】」2022年1月14日配信、https://www.chunichi.co.jp/article/399912 、閲覧日:2026年8月3日。

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