名馬の記憶を、
再生する。

年表ICHINEN-ISSO — 2400m

BOKUJŌ-CHŌ — HOKKAIDO

牧場帖

一年ずつ、顔ぶれをたどる。引退した名馬たちの繋養・在籍と映像を綴る帳面。
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サイレンススズカのイメージビジュアル
サイレンススズカSilence Suzuka
Silence Suzuka

サイレンススズカ

通算成績16戦9勝

獲得賞金45,598万円

生年月日 1994.05.01(平成6年)毛色 栗毛

全成績

主要戦績(抜粋)・新しい順
サイレンススズカの成績一覧
年月日着順レースコース人気騎手タイム上り3F映像
GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 1人気 武豊 映像
1 GII毎日王冠 東京 芝1800 1人気 武豊 1:44.9 上り35.1
1 GI宝塚記念 阪神 芝2200 1人気 南井克巳 2:11.9 上り36.3映像
1 GII金鯱賞 中京 芝2000 1人気 武豊 1:57.8 上り36.3
1 GIII小倉大賞典 中京 芝1800 1人気 武豊 1:46.5 上り36.4
1 GII中山記念 中山 芝1800 1人気 武豊 1:48.6 上り38.9
1 OPバレンタインS 東京 芝1800 1人気 武豊 1:46.3 上り36.0
5 GII香港国際C 香港 芝1800 武豊 1:47.5
15 GIマイルチャンピオンS 京都 芝1600 6人気 河内洋 1:36.2 上り39.4映像
6 GI天皇賞(秋) 東京 芝2000 4人気 河内洋 2:00.0 上り37.0映像
2 GII神戸新聞杯 阪神 芝2000 1人気 上村洋行 2:00.2 上り36.5
9 GI東京優駿 東京 芝2400 4人気 上村洋行 2:27.0 上り35.8映像
1 OPプリンシパルS 東京 芝2200 2人気 上村洋行 2:13.4 上り34.7
1 4歳500万下 阪神 芝2000 1人気 上村洋行 2:03.0 上り37.1
8 GII報知杯弥生賞 中山 芝2000 2人気 上村洋行 2:03.7 上り36.9
1 4歳新馬 京都 芝1600 1人気 上村洋行 1:35.2 上り35.5

血統

金色の名は 名馬ジャーニー に掲載 — その馬のページへ
サイレンススズカの血統表(左から親・祖父母・曽祖父母)
サンデーサイレンスSunday SilenceHaloHail to Reason
Cosmah
Wishing WellUnderstanding
Mountain Flower
ワキアWakiaMiswakiMr. Prospector
Hopespringseternal
Rascal RascalAck Ack
Savage Bunny
STORY

旅程 — この馬の物語

1994年生まれの栗毛の牡馬。父サンデーサイレンス、母ワキア。主な勝ち鞍は宝塚記念・中山記念・小倉大賞典。

サイレンスとスズカ ― 名前の由来

父サンデーサイレンス、母ワキア。1994年5月1日、北海道・稲原牧場に生まれた栗毛の牡馬である。父はこの時代の日本競馬を根こそぎ塗り替えていく大種牡馬。「スズカ」は馬主・永井啓弍の冠名で、三重と滋賀にまたがる鈴鹿山脈に由来する。父の名から「サイレンス」を継ぎ、冠名の「スズカ」を重ねて、その名は決まった。預けられたのは栗東・橋田満厩舎。のちに「最強の逃げ馬」と呼ばれることになる一頭の物語は、静寂(サイレンス)の名から始まる。

抑えのきかない才能 ― 一九九七年

1997年2月、京都の新馬戦を1分35秒2で危なげなく勝ち上がる。素質は明らかだった。だが次の弥生賞ではゲートをくぐるように出遅れて8着、続く日本ダービーも折り合いを欠いて9着に沈む。有り余るスピードを、その身体はまだ持て余していた。神戸新聞杯で2着に敗れると、主戦の上村洋行が手綱を降りる。速すぎる才能は、御し方を見つけられないまま、その秋を過ごしていた。

武豊の一言 ― 逃げよ

転機は、暮れの香港にあった。1997年12月、香港国際カップで初めてこの馬の手綱を取ったのが武豊である。5着に終わったその一戦のあと、武豊は調教師の橋田満に進言した――この馬には、抑える競馬ではなく、行かせる競馬が向いている、と。引っ掛かる癖を矯めるのではなく、持って生まれたスピードをそのまま解き放つ。「大逃げ」という答えに辿り着いたとき、欠点であったはずのものが、そっくりそのまま最大の武器へと変わった。

無敗の春 ― 後続は、はるか後方

1998年、サイレンススズカは変貌する。バレンタインステークスを2着に4馬身突き放して始動すると、中山記念、小倉大賞典、金鯱賞と勝ち続けた。小倉ではコースレコード、金鯱賞では2着に1秒8という途方もない差をつけて1分57秒8のレコード。先手を取り、誰にも息を入れさせず、後続をはるか彼方へ置き去りにする。常識ではオーバーペースで沈むはずの逃げが、この馬に限っては、そのまま最後まで続いた。

宝塚記念 ― 主戦は、いなかった

初のGI、宝塚記念。だがこの大一番に、武豊の姿はサイレンススズカの背になかった。前年の年度代表馬エアグルーヴへの先約があり、手綱は南井克巳に託される。1998年7月12日、阪神。南井を背にしたサイレンススズカは、いつものように逃げ、いつものように後続を断ち切って2分11秒9でゴールへ駆け込んだ。待望のGI制覇。そして武豊は、ライバルのエアグルーヴで3着。自らの最強の愛馬が頂点に立つその瞬間を、彼は別の馬の鞍上から見ていた。

毎日王冠 ― 無敗の二頭を相手に

秋、武豊が戻ってきた。10月11日の毎日王冠は、のちに長く語り継がれる一戦となる。相手は、ともに無敗のエルコンドルパサーグラスワンダー。世代を背負う二頭の刺客を前にして、サイレンススズカは一切ためらわなかった。ハナを奪い、東京の1800mを1分44秒9。追いすがるエルコンドルパサーに2馬身半の差をつけ、上がり3ハロン35秒1でなお突き放しての完勝だった。逃げて、なお最も速い。誰もが、この馬の次のGIを心待ちにした。

一九九八年十一月一日 ― 天皇賞・秋

1番人気。この日の焦点は、勝ち負けではなく、どれだけ後続を離すのかにあった。スタートからハナへ。サイレンススズカは後続に10馬身以上の差をつけ、府中の長い直線の、そのさらに向こうを、たった一頭で走っているように見えた。だが3コーナーを前に、その走りが沈むように止まる。左前脚手根骨粉砕骨折。武豊はすぐに馬を止めた。あまりに大きなリードの、あまりに突然の終わりだった。予後不良。最強の逃げ馬は、自らが作り出した静寂のなかで、二度と還らなかった。

武豊が背負ったもの

レースのあと、武豊は泣きながら酒を飲み、人生で初めて泥酔したという[^1]。「骨折をして転倒をしなかったのは、僕を守ってくれたからかもしれない」[^1]――最後の最後まで、この馬は鞍上を地に投げ出さなかった。種牡馬としての未来も、その先に続いたはずのすべても、あの一瞬が奪っていった。残されたのは、無敗のまま先頭で駆け抜けた一年の記憶だけだ。だが競馬において、その記憶は消えない。後続を離して逃げる馬を見るたび、人はこの栗毛を思い出す。静寂の名を持つ馬が遺したのは、誰にも捉えられないまま終わった、一本の逃走劇だった。

出典:Number Web「武豊、サイレンススズカの死に『泣きながら酒を飲み、人生初の泥酔をした』 知られざる“天才騎手”の素顔とは?」2021年7月9日配信、https://number.bunshun.jp/articles/-/848718、閲覧日:2026年6月27日。

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